ピストルズ やがて哀しき独り言

東京・恵比寿で広告・Webプランニング・開発・制作会社を経営する3年目経営者の悲哀を語っていきます。 弊社URL→ http://www.pistil-pistol.co.jp

ジジイと入れ歯と有村架純。

先日、新潟の親戚のおじさんが上京してきたついでに浦和の実家に立ち寄るというので、僕も一緒に酒の席に着くという羽目になった。おじさんといってもすでに70を超えたじいさんなわけで、そのまま新幹線に乗って長岡まで帰りゃあいいのにと思うのだが、遠く離れた親戚に会うという機会は、いまではほとんど誰かが死んだときくらいなので、身内に不幸がないこういう時こそ一緒に酒を交わすものだという説得に負け、八海山を空けなくてはいけなくなったのだ。

年寄りの昔話と、延々とリフレインされるフレーズには毎度辟易するものだが、今回は僕が独立したということで、「偉い!よく決心した」などと浮かれた言葉を連発し、赤ら顔のおじさんは実に気持ちよさそうに八海山をぐびぐび呑みつづけるのだった。

別におじさんは酒乱ではないので極めて陽気に酒を飲む姿はなかなか男らしいし、好きなだけ飲んで酔うだけ酔ってそのまま寝てくれればそれでいいのだが、問題は御猪口の献酒・返杯を強要してくることだ。

自分で飲んだ御猪口に酒を入れ、僕に飲め飲めと強要するこの日本伝統スタイル。無理に酒を飲まそうという魂胆は別にどうでもいいのだが、70過ぎの入れ歯ジジイが口をつけた盃に自分も口をつけなくてはいけないというのは、どうしても気持ちが悪い。「ちゃんとポリデントしてんのかこのジジイは」とか、「本物の歯がないだろうから2,3日歯磨きしなくても平気なんじゃないか」とかいらぬ妄想が頭をよぎる。同じ妄想なら、有村架純あたりにお酌してもらって、「どうだおまえも一杯?」「んもう浩ちゃんたら、こんな幼い女を酔わせてどうするつもり?」「なに言ってんだよおまえ、こんな真昼間から」「そんなこと言って、浩ちゃんが私に何をしでかそうとしてるのかなんて、みえみえなんだから~」といった妄想に酔いしれていたい。

とはいえ断るわけにはいかないので、爺さんの唇がついていないだろう辺りに見切りを付けて、息を止めて一気に飲み干した。酒が空いた盃の中を見なければいいのだが、思わず目が盃の中の一点に注がれてしまったのが不幸の始まりである。小さな毛らしきものが張り付いているのである。

これは僕の眉毛またはまつ毛が落ちたのか。またはおじさんの眉毛またはまつ毛、または鼻毛が落ちて最初から浮いていたものなのか。少なくとも有村架純のまつ毛でないことは確かだ。僕はジジイの首を絞めて、この場で息の根を止めてやろうかとさえ思った。なにが身内の不幸が無い時こそ酒を交わすものだ、俺に不幸が降りかかっているじゃないか!いますぐにその細い首を絞め倒して、身内の不幸を起こしてやろうか!!

とにかく日本の伝統的風習というのは不潔なものが多い。勘弁してほしいわ、ほんとに。。。

腕時計と税理士。

顧問税理士と会うたびに思うのは、こいつ俺たちの毎月の顧問料でがっぽり儲けやがって、毎回違う腕時計してやがるということだ。今回はIWC、前回はロレックス、前々回はフランクミュラーだった。フランク三浦でないところがムカつくのだ。

彼が言うには、アポイントは基本社長さんが相手だから、同じ時計していると笑われるんすよねー、と人の腕時計をチラ見しながらふくみ笑いしてやがる。

僕はといえば、昨年の4月独立して1年頑張ったご褒美として、自腹でタグホイヤーのカレラを買ったのだが、毎回その時計をしているというのが情けない。それ以外にはGショックとアシックスのジョギング用時計しか持っていない。僕は生涯付き合うつもりで、一大決心のもと、銀座の正規ショップでカレラを買った。定価でだ。退職金の残金から店員の頬を札束で張り倒してやる勢いで買ったわけだが、期間限定オマケとして付いてきたオフィシャル革バンドに小躍りして喜ぶ姿に、店員は貧乏人が清水の舞台から飛び降りる姿を見たのだろう、上から目線で僕に微笑んでいた姿が忘れられない。

その僕の腕時計を見て税理士は言う。

「社長!正規店で買ったんですか!流石ですね〜、私なんか毎回ハワイとか香港とかドバイとかゴールドコーストとかシャルルドゴール空港とかの免税店ですよ!!いやー、正規店なんてではとてもとても笑」

とうとう僕の堪忍袋の尾は切れた。

「貴様、免税店免税店と海外旅行に行きまくっているのを自慢したいのか!?なにが正規店で買って偉いだ!俺はな、俺はな、もう10年近く海外旅行になど行ってないんだ!貴様に毎月払ってる3万5000円をコツコツとためやがって、この小銭貯蓄型のケチ野郎!コツコツとマイルなんぞためやがって、貴様、ファミマで98円の買い物する時でもTカードにポイント貯めるタイプの小市民だろがっ!」

1人で顔を赤くしている僕を見て、彼は言うのだ。

「社長、ポイントを舐めたらあきません。私なんてポンタもnanacoWAONも駆使しておりますよ。ほら、ヤマダとビックのカードも。マイルだって、ほらここ見てください、ヤマダ電機のポイントをANAのマイルに変更することも可能です。カードで買ってポイント貯めるのは常識です」と勝ち誇った笑顔で財布から出るわ出るわのポイントカード天国。

唖然とする僕に、畳み掛けるように彼はトドメを刺す。

「ローンのことから助成金補助金、生命保険のことからポイントカードのことまで、お金に関することならすべて私におまかせください!」

うーむ。そのコロコロ変わる高級腕時計の裏には、そんな知識と努力があったのか、、、参りました、許してください。

スローバラード 03

湘南の海はただ寒いだけで、そこにはロマンティックのかけらもなく、片瀬江ノ島海岸の駐車場の中で、彼女が持ってきたRCサクセションのMDをずっと聴いていた。今思えば、それまで彼女の口から「清志郎」の名前など出てきたことはなかったはずだ。でもその時の僕にはそんなこと関係なかった。「ぼくの好きな先生」「トランジスタ・ラジオ」「ステップ」と流れる清志郎の歌声をBGMに、ずっと彼女の手を握っていた。(なぜ俺は今こんな恥ずかしい文章を書いているのだろうか?)

「市営グランドの駐車場 二人で毛布にくるまって」

そこは野球場でも陸上競技場でもなかったけれど、毛布だってなかったのだけれど、クルマの暖房を最大限に効かせ、上野のアメ横で買ったAIR FORCEのジャンパーを彼女に掛けてあげて、僕は彼女の真っ白なコートを被り、お互いの将来を語り合った。

「読モなんて専門学校行ってる間だけしかできないから、卒業したらちゃんと美容院に就職して、いつか地元で美容院をやりたいんだ」と、地道な生き方を模索しようとしている彼女に対して、僕は相変わらず浮ついたことばかり考えていて、

「俺は就職する気はないんだよね。大学にいる間に新人賞とって絶対小説家になるよ。でも芥川賞系の作家は飯食えないから、直木賞とって浅田次郎とか伊集院静みたいな作品を書きたいと思っている」などと完全に中二病状態の妄想を自信満々に披露しただけならまだしも、

「作家なんて別に東京にいる必要はないわけだから、福岡まで編集者が原稿を取りに来るベストセラー作家になる」などという、すっかりのぼせあがった、彼女と所帯を構えた後の人生設計まで披露してしまうのだった。いまの僕が当時の僕に会ったなら、2、3発頬を張ってやりたい。「目を覚ませ!」と。

「こうちゃんなら絶対なれるよ!だってこうちゃんから誕生日にもらった手紙、笑えるし泣けちゃうし、ほんとに感動したもん!」なんて彼女が言うものだから、すっかりその気になった僕は、まずは文藝春秋からデビューしてすんなり直木賞とって、そうだな講談社からも本を出したほうがいいな、でも作家となったらやっぱり新潮文庫に自分の名前が加わるのは誇りになるだろうから、新潮社とも早めに付き合っていた方がいいな、などとまったく意味のない妄想が頭を駆け巡ったのだった。

「夜露が窓をつつんで 悪い予感のかけらもないさ」

清志郎の歌詞は、当時の僕の愚かなひとりよがりを全くもって的確に言い表している。その後僕は「文学界新人賞」に都合3回落選し、普通に就職していくことになるのだから、あの湘南の海の一夜は、何一つ悪い予感のかけらも持ち合わせてはいなかった、傷の痛みを知らない愚かな青少年の物語でしかなかったのだ。

(次回へつづく)

女の情念

僕のiPhoneのプレイリストにある「女の情念特集」にはどんな曲が入っているのかという問い合わせがあったので、ここに一覧を掲示します。その方は、「中島みゆき特集」ってこと?と仰っていましたが、ちょっと違います。

1.うらみます(作詞:中島みゆき

  →中島みゆきのあの声でいきなり「うーらーみまーーす」と言われると、後ろめたい気持ちのある男は必ずフリーズします。

2.後ろから前から(作詞:荒木とよひさ

  →畑中葉子が歌うこの曲は、一見「私を好きにして」と言っているように聞こえますが、その裏にある女の本音が垣間見え、背筋が凍ります。

3.夜と朝のあいだに(作詞:なかにし礼

  →ピーターの代表曲。「死人のように」とか「鎖に繋がれたむく犬」とか、ピーターに言われることを想像してみてください。

4.風になりたい(作詞:吉田拓郎

  →川村ゆうこの曲。傷を隠して別の男に何を求めるのか?さわやかなサウンドですが、詞をじっくり読むと、心の奥に本音を閉じ込めた女の生き様が見え、怖くなります。

5.お金をちょうだい(作詞:星野哲郎

  →美川憲一の隠れた名曲。「別れる前にお金をちょうだい あなたの生活にひびかない程度のお金でいいわ」なんて言われたら、自分の無責任な行いを懺悔しないわけにはいかなくなります。

6.天城越え(作詞:吉岡治

  →女の情念と言えばコレっていう曲です。まあ定番曲ってやつです。

7.部屋とYシャツと私(作詞:平松愛理

  →この曲はすごい。「愛するあなたのため、毎日磨いていたいから」よくものうのうとこんなことが言えるな!許してくださいと言いたい。なんでこんな曲がヒットしたのか?

8.みだれ髪(作詞:星野哲郎

  →美空ひばりが歌っているのですが、「捨てたお方の幸せを、いのる女の性かなし」なんて言われちゃうと、さすが女王!と万感の思いで拍手を送りたくなります。

9.ジョニーへの伝言(作詞:阿久悠

  →超好きな曲なんですが、「もとの踊り子でまた稼げるわ」なんて捨て台詞を言われたら、、、僕はもう生きてはいけません。

10.難破船(作詞:加藤登紀子

  →僕が人生で一番愛したアイドル中森明菜の曲ですが、すごくこわい。「あなたを追いかけ抱きしめたい」と持ち上げておいて、「あなたを海に沈めたい」とくる。沈められるのは案外幸せなのかもと、意識が朦朧とし混乱してきます。

11.雨音はショパンの調べ(作詞:どっかの外国人/訳詞:ユーミン

  →小林麻美の細いボーカルよりイントロのピアノの音の方が印象的なのですが、「気休めは麻薬」と言われた瞬間に背筋が伸びます。

12.外は白い雪の夜(作詞:松本隆

  →吉田拓郎の代表曲の1つですが、「今夜で別れと知っていながらシャワーを浴びたのかなしいでしょう」とか「最後の最後の化粧するから私をきれいな思い出にして」とか「いつもあなたの影を踏み歩いた癖が直らない」とか。もう溜息。。。

13.北の宿(作詞:阿久悠

  →まあこれも定番曲。

14.女のみち(作詞:宮史郎)

  →これもド定番。何がいいのか分からないけれど、一応入れています。

一応これですべてです。改めて見てみると、作詞はほとんど男なんですね。「女の情念」なんてのは、男の妄想が創り上げた勝手な夢のような気がします。女のひとってのは、風のようにあっちに吹いたかと思えば、こっちに吹いたりと、移り気でいてもっと芯が太いような。ストーカーに走ったり、自殺したり、だいたいそういうことって男がやらかすものなんで。

それにしてもこれらの曲をひとつのプレイリストにするために、ネットで買ったりTSUTAYAでレンタルしたりと、案外僕はマメなんだなぁ。

 

スローバラード 02

見事ルノワールに彼女を誘い出した僕は、席につき早々に注文を済ませると、すぐさま「先ほどは申し訳ありませんでした。サークルの勧誘というのは真っ赤な嘘で、あなたに一目惚れして、どうしても声をかけたくて、思わずありもしないサークル勧誘のフリをしてしまいましたっ!」と頭を下げたのだった。

「バカにしないでっ!あんたなんかに声かけられてひょいひょいとついてくる軽い女だなんて私のこと思ってるの!失礼しますっ!コーヒー代はここに置いておきます、あんたみたいな人に奢ってもらうなんて気分悪いわっ!!」などと彼女が言う訳ないことは知っているので、誘っておいてすぐに正直に白状するというのは、当時の僕の経験から得た知識であり、戦略であった。

「やっぱりね、なんかそんな気がしてたよー」と笑う彼女の屈託ない笑顔の虜になった僕は、この瞬間から濃密な恋の世界へ落ち込んでいくのだった。恵比寿や中目黒のちょっとお洒落なバーに通い、そこで初めてカンパリの美味しさを知った。タランティーノの映画を好きになったのも彼女の影響だ。スピルバーグには興味を持てなかったのだけれど。そうこうしているうちに、僕は人生で初めて「同棲」とか「学生結婚」とかを考えるようになった。

当時僕はさいたまの実家に暮らしていて、彼女はお姉さんと恵比寿のガーデンプレイスの裏にある賃貸マンションに暮らしていたから、二人っきりになるためには相当なお金が必要だったし、二人だけの空間を確保するためにはあまりにも時間が限られていた。

そこで僕は、塾講師と東武動物公園のヒーローショーのアルバイトの他に、下水道が整備されていない田舎町の汚物回収車のアルバイトを始めたのだった。日給9,000円。高円寺の商店街を抜けた先にある賃貸アパートの敷金・礼金分のお金を貯めるためだった。

いまでも覚えている。1997年10月25日。僕が高円寺の駅前にある小さな不動産屋の太ったおばちゃんに、敷金礼金夫々2か月分の札束を叩きつけた日だ。

11月の頭からそのアパートに彼女と転がり込み、二人で吉祥寺のパルコにベッドやらコーヒーカップやらを買いに出かけた。僕が初めて吉祥寺のいせやに行ったのもその日だ。長渕剛の「東京青春朝焼物語」ってこういうことを歌っていたんだと、地方出身者でもないのに身に染みて思ったものだ。お金が足りなくて、テレビを諦めて掃除機を買った。

その日からの3ヶ月、僕らは高円寺のアパートでパンケーキを焼いたり鍋を作ったりして過ごした。新宿に出かけてオールナイトの映画を観たり、彼女のお姉さんが不在の日には、ガーデンプレイスTSUTAYAでビデオを借りて、彼女の部屋で朝までビデオを見たりしていた。スピルバーグの映画よりも「男はつらいよ」の方が好きだとは最後まで言えなかった。彼女に誘われ武道館にイエローモンキーのLIVEを観に行って、吉井和哉のような男になりたいと愚かにも本気で思ったのもこの頃だ。

でも、ある日を境に、彼女が僕のアパートへ通う回数が減り始めていることを知った。彼女も読者モデルの仕事の付き合いで夜が遅くなっていたし、彼女の通う専門学校が新宿にあったから、高円寺まで来るのが億劫になっているのかなと、楽観的に考えていた僕は、テレビのない部屋でジョン・キーツの詩集とか大江健三郎の小説とかを読み、「文学界新人賞」に投稿するための短編小説を執筆していたりしていた。

で、冒頭の「スローバラード」に話は戻る。1998年の2月。1週間近く彼女と会っていなかった僕は、どうしても彼女を誘い出したくて、「福岡の冬の海ってすごいロマンティックだよ」と言っていた彼女の言葉を思い出し、実家に戻りクルマを借りて、湘南の海へと彼女を無理に誘い出したのだった。池袋から恵比寿方面に向かい、混雑した深夜の明治通りはいまでも鮮やかに僕の脳裏をよぎるのだ。

(次回へつづく)

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スローバラード 01

ここ1週間くらい、コピーを書いたり企画書をつくったりしながら、ずっとRCサクセションを聴いている。

僕のiPhoneの中には17種類ほどのプレイリストがあって、それぞれに「拓郎コレクション~人生を語らず~」「拓郎コレクション2~どうしてこんなに悲しいんだろう~」「ヨコワケハンサム・ベスト」「60's~ビートルズローリングストーンズ・ビージーズを中心に~」「60's~ボブディラン、S&G、ビーチボーイズを中心に~」「70's~フォークソング特集~」「80’s~中森明菜、安全地帯、チェッカーズを中心に~」「松本隆作詞集」「サカナクション好きな曲だけ」「AKBシングルコレクション」「モーツァルト特集」「男の演歌特集」「女の情念特集」「長渕剛~風は南から→家族まで~」「アメリカンロック~スプリングスティーン、ザ・バンド、ドアーズなど」「沈んだ時に聴きたい竹内まりや山下達郎夫妻」「RCサクセションタイマーズ」とまあ、支離滅裂というか、好きな音楽の流れが全く見えてこない選曲となっている。

で、RCサクセションの代表曲の1つ、「スローバラード」だ。You Tubeで見ると、けっこうたくさんの人がカバーしているけれど、清志郎以外が歌うスローバラードは、やっぱり単なるバラードで、誰も本家RCサクセションを超えることはできない。

清志郎のボーカルの凄さももちろんあるのだけれど、清志郎が描く詩の世界はいつでも独特で、どうしてか無性に胸を締め付けてくるものがある。清志郎が書いて歌っていないと、この感情にはならない。不思議だけれど。

「昨日はクルマの中で寝た あの娘と手を繋いで」

冒頭のこの一節でもう来てしまう。蘇るのは大学1年の冬。オヤジのクルマ(HONDA)を借りて、彼女と湘南の海に行った。当時の彼女は福岡出身の同い年。専門学校に通いながら読者モデルをしている子だった(はい、面食いです僕!)。その年の夏の終わり、いつものように池袋西口公園でナンパ待ちをしている子たちを物色していた僕は、ターゲットを短大生・専門学校生に絞り、「早稲田生」というブランド力を最大限に利用した周到かつせこい戦略で複数回のナンパ成功を果たしているという事実に自信をつけていたため、公園内にいる一番の美人に声をかけた。それが彼女だった。

「わたくし、早稲田大学の1年生なんですけども、インカレサークルの勧誘やってまして、いえいえ決して怪しいものではありませんのですけども、先輩からしつこく勧誘を命じられておりまして、ぜひ一度お話だけでも聞いていただけないかと。いえいえ、女の子に睡眠薬入りのカクテルを飲ませて眠ったすきに、なんてことは一切ない安全安心が第一主義のインカレサークルです。え?なにをするのかって?どんなことがしたいですか?えっ?高校ではバスケをやられていたんですか?もちろんバスケもやります。ハイキングにも行ったり、秋になったら高尾山に登ったり、キャンプ、水泳、夏休みにはお金を出し合って南紀白浜などに遊びに出かけたりと、まあなんでもアリのサークルなんです。え?なんでもアリとはどういうことだと?もちろん一線を越えてはいけないルールは厳しく引いておりますので、親御さんにご迷惑をおかけするようなことは一切ございません!」などと、実に清々しい勧誘を装い、インカレサークルなどに入っているわけでもないのに、口から出まかせ放題でルノワールに誘い出したのだった。

(次回へつづく)

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心のこり

5月末で、2年通ったジムを辞めることにした。4月以降ジムに通う回数が激減し、また目標としていた体重や体脂肪率なども達成したりと、ジムに通うことへのモチベーションが低下したことが原因だ。とはいえ、体脂肪率10%を切ることへの執着は捨てていないし、ピストルズ from EXILE TRIBEへの道もまだ半ばであるわけだから、これからは細々とジョギングを続けていこうと思う。

ただひとつ心残りなのは、ジムで知り合った受付の女の子(25)のことだ。彼女はそもそも入会時に受付担当してくれた子で、また以前Facebookにも投稿したのだが、僕が誰もいない更衣室で、何一つ身にまとうことなく生まれたままの自然な体で、鏡に向かってミケランジェロポーズで自分に酔っている姿を目撃されたこともある。

そして僕の退会手続きも、偶然にも彼女が担当してくれたのである。

「山宮さんが週3回通うのは難しいと仰ってたのに、実際は4~5回通ってくださってましたよね。本当に嬉しかったです」などと彼女が言うものだから、僕も涙を堪えられなくなりそうで、「あなたに会うのが楽しみだったのかもしれないですね」などと、心にもないことを口にしてしまえる自分が恥ずかしいのだが、僕の意志とは裏腹に、「いつも笑顔が素敵だなと思ってました」などと追い打ちをかけるようなことを口にしてしまうのだった。

そんな流れでLINEの交換などもしてしまい、完全に舞い上がってしまった僕は、「これが巷で流行りのジムコンっていうやつだな」と内心で浮かれ倒す合コン童貞の高校生のような気分になってしまった。

そんなわけで一昨日、彼女の地元であるという西川口という街で飲むことになってしまった。西川口といえば、男性諸君なら一度は聞いたことのある”NK流”で一時代を築いた地元・埼玉の一大歓楽街である。とはいってもそれは10年くらい前の話で、いまでは警察の厳しい監視下のもと、うら寂れた飲み屋街に落ちぶれてしまっている。

待ち合わせの15分ほど前に西川口駅についた僕は、まだ店の予約をしていなかったため、様々な状況を踏まえたシミュレーションを行うことになった。3年くらい前に来て大変美味しかった韓国料理屋、さびれた感じがまたその店の年季を思わせるような焼き鳥屋、超有名店の焼肉屋、まずいことにどれも駅の西口に店を構えているのだ。

問題は、この駅の西口というのは、大変淫靡な香りが鼻につく街で、ラブホテルやルートコがいまだひしめき合うような場所。37歳のおっさんと25歳のうら若き女子が2人で歩いていると、まず間違いなくそっちの目線が突き刺さるであろう。それはまずいのだ!

このさい西口は考慮に入れるべきではないと、冷静かつ鋭い判断を下した僕は、とりあえず東口駅前のミスタードーナッツで東口限定のシミュレーションを行うダンドリを組んだのだ。

でもそこに落とし穴が潜んでいた。闇は知らず知らず僕のもとへやってくる。ミスドゴールデンチョコレートとブレンドコーヒーを注文し、スマホで片っ端から東口の店を探し出した。だが、37歳のダンディでスマートな男がチョイスすべき店が見つからず、いらいらしながらコーヒーをお代わりする。そのコーヒーも3杯目に差し掛かったころ、彼女からLINEで30分遅れるとの通知が。内心ほっとしながら、一向に見つかる気配のない店探しに全身の血液が沸騰し、体内を巡りに巡っていたのだろう。どうもお腹の様子がおかしい。

下痢になったのだ。僕はミスドのトイレに駆け込み、スマホを抱え込むように脱糞作業及び店探しという重大な2つの任務を行わなければいけない状況に追い込まれた。ただ下処理の方が大変忙しく、スマホなどいじっていられない状況となったため、20分以上お尻ふきふきしてはまた出してを繰り返してしまった。ひと段落して、スマホを見ると20時40分。すでに約束の時間は過ぎている。しかもトイレの中は圏外になっている。僕はトイレの鏡で見た青白い顔が、約束に遅れたためか、店が見つからないためか、圏外で連絡がつかない状況になっているためか、はたまたすべてを出し切ったためか分からなくなり、混乱の中へ落ち込んでいった。

その後の事はここには書かない。でも心のこりだけは残ったのは確かだ。

笑ってはいけない焼肉店

その店は、目黒の権之助坂にあった。薄汚い雑居ビルをエレベータで2階に上がると、突然流れ出す警報音。せめてファミリーマートに入店した時のチャイム音くらいにしてくれればいいのに、警報音。店に入った瞬間自分が強盗ではないかという錯覚に陥った。

さらに驚かせてくれるのは、エレベータの目の前にあるテーブルで眠っている外国人の店員。いくら客がいないからっと言って、一番目立つ場所で居眠りこかなくたっていいじゃないか!もう入店した時点で、僕の心の中の「ええじゃないか運動」は始まっていた。

この日は、前職の名古屋時代の後輩、東海地区を中心に活躍するライター、なかじこと中嶋くんと共に得意先周りをしていた。すべての営業活動が終わり、晩飯でも食おうと立ち寄った焼肉店での出来事だ。

眠気まなこのネパール人の店員さんにひと通りオーダーしたまでは良かったのだ。その店員がまだ着火されていない木炭を入れた七輪を持ってきたところから、笑ってはいけない焼肉店が始まることとなった。

あら、ここで着火するの?変わった店だわねと、その七輪を眺めていると、店員はいきなりガスを全開にして七輪の下の穴から強火で木炭を炙り始めた。と思ったら、いきなり上タンを網に並べ始める。木炭に火はついてないのに!炭火というのは完全にカムフラージュで、ガスの火で上タンを炙っているのだ。完全に度肝を抜かれた僕らが呆然としていると、1800円する上タンは全てガスの火であぶられ、其々の皿に取り分けられていく。言葉を失う僕らを尻目に、彼女は次に上焼肉盛合せ4200円も次々とガスの火に晒していくのだ。カルビ、ロース、ハラミと焼かれていく。もちろんガスでだ!そこでなかじが気が付いたのか、あ、自分たちで焼きますからと一言。ネパールからやって来た24歳の店員は、何も言わず、トングを置き、厨房へと去っていった。

この時点で笑ってはいけないポイントは4つ。

・客の入店を知らせる音がなぜか警報音

・店の一番目立つ席でネパール人の店員がガン寝している

・炭火とはカムフラージュで、実際はガス火

・黙っているとこちらのペースを完全無視して全ての肉を焼き尽くしてしまう

とにかく完全にペースを崩された僕らはなんとか態勢を立て直そうと、例の店員さんを呼びつけて、ドリンクのお代わりをオーダーする際に、せめて彼女の素性だけでも明かしておこうと取材攻勢をかけることにしたのだ。以下、知り得た情報。

・日本に来たのは3年前

・専門学校でITを学び、現在日本で就職活動中

・恋人は生まれてから1人もいない

・ネパールで起きた大震災で実家は全壊

・この焼肉店でのバイトは親戚のお兄さんの紹介

大変素直で純朴な彼女に一瞬心を奪われそうになった僕らではあったが、日本語上手だねと声をかけると、

「いいえ、漢字がスゴく難しいですぅね、JAVAならわかるぅんですけど」

「え、ブログラム書けるの?スゴイね。JAVAってURLの最後が.doのやつね」

「Doですねぇ!」とシャレを効かせてきやがる。その間にも、追加注文したカルビと子袋を焼き尽くしてしまった彼女。実に仕事熱心なのだ。

こうなったら仕方ない。彼女がどこまで仕事熱心なのか試してやろうとビビンパをオーダーし、彼女に掻き回してもらおうと決意するに至った。

運ばれてきたビビンパを掻き回してもらいながら、僕はスマホ片手に気づかない振りを決め込んだ。なかじはなかじで黙々とクッパを啜りながら素知らぬふり。彼女は淡々とビビンバを掻き回し、ゆうに5分は経過していった。チラ見すると、ビビンパの米は最早餅米のような粘り気を醸し、米なのか餅なのか分からない状態になってしまっていた。

「こめんなさい。もう許して下さい」と言ったのは僕である。僕がストップをかけなかったら、1時間でも2時間でも米を掻き回し続けていただろう彼女。その仕事熱心ぶりに心を打たれた。JAVAが得意のようだし、うちで採用してやってもいいなとまで思ってしまった。

問題のビビンパの味であるが、それはもう、ええじゃないかええじゃないかええじゃないか、餅米だってええじゃないか!餅だと思えばええじゃないか!ええじゃないかええじゃないかええじゃないか!

帰り際、店の入り口に貼られている、小栗旬山田優夫妻がこの店を訪れた時の写真を見つけた。小栗旬の目が僕らに語りかけていた。ええじゃないかええじゃないかええじゃないか!こんな店でもええじゃないか!ブログに書けばええじゃないか!

人妻シャンプー

僕が月に1回通う美容院は、なぜか託児所が付属している。それは主婦のお客さんの為というよりも、どうやらそこで働く人妻美容師の為という意味合いが強そうだ。カットだけなら2200円、シャンプーオプションを追加しても3000円でお釣りがくるほどのローカル価格の店である。

僕はもともと外見にこだわりがある方ではないし、20代の頃は、「AV監督とかにいそう〜」などとコソコソ言われるくらい髪は伸ばしたい放題だったのに、なにゆえ月1ペースでその美容院に通うようになったのかと言うと、なんてことはない、そこに胸が疼くような人妻美容師さんがいるからだ。

その人は、みなさんが大好きな結城みささんから、色気を多少薄めにブレンドしたような人で、これは月1でも足りないくらい通いつめたくなる疼きを僕に呼び起こす。 当然指名予約してるんだろうドスケベ野郎がっ!!と言われることは分かっているし、根が心底小心者の僕は、「あの変態またきやがったな」と金髪のオーナー店長風情にふくみ笑いされるのが癪にさわるので、予約せず、ふらーっと店の前を通ると、あれ、ちょっと髪伸びてきたなぁ、ここら辺でいっちょう切っとくか、などという極めて自然体の風を装い、素知らぬ顔で店に入ることにしている。

そんな苦労を金髪風情は知ってか知らずか、ここ3回いずれもハズレを押しつけて来ていたのだが、遂に今日、1月以来の当たりを引くことになった! 残念ながらド近眼の僕は、髪を切り刻んで貰っている間はメガネを外しているので、彼女の顔は見えない。本音を言えば、あのーすいません、切りにくい事は百も承知で無礼を申し上げるのですが、細々と切り方をチェック及び指示したいので、大変申し上げにくい事ではあるのですが、メガネをつけたまま、いっちょうやってくれませんかね?と言いたいのであるが、御存知小心短小包茎野郎の僕にそんな事は言えない。この時ほどスーパーマリオをやり過ぎて眼を悪くした自分と任天堂を呪う瞬間はない。

そんな悶々とする時間の中で唯一昇天したくなるのが、オプションのシャンプータイムである。美容院でシャンプーする時は、仰向けの状態で白いガーゼみたいなものを顔に被せられるわけだが、僕の顔がいささか大きすぎるせいか、眼の両端部分がはみ出るような仕組みになっている。その小さな隙間から覗き見る彼女の表情は、この世の美以外のなにものでもないのだ。痒いところありませんか〜などと言われると、全身の血液が逆噴射しまくっている僕は、もう全身が疼いてて痒くて仕方ないんですっ!と心で絶叫しつつ、極めてクールに、いいえ、気を遣っていただいてありがとう、などとスカしてやるのだ。

そしてシャンプータイムのフィニッシュは、こめかみあたりを両の親指でぎゅぎゅっと押しつけてくる秘技である。僕の逆噴射確変実施中の血液も果てしない太平洋の中へと流れ込んでいく仕儀となってしまうのだった。

月1回の悦びを求め、かなりハイリスクな未予約入店というプレイは、この生きにくい世を生きる活力になっていることは間違いない。

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小銭をかぞえる。

先週末、群馬県四万温泉というところに行った。

「四万たむら」という老舗の高級温泉宿だ。

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室町時代に創業した四万たむらは、さすがに威厳を感じさせる佇まいで、長時間の運転をしてきた来訪者を、優しくというよりも、「貧乏人風情のおまんらたちが来るようなところではないわ!」という厳しい視線で出迎えてくれるという、ちょっと後ずさりしてしまう感じが病みつきになる宿と言った方がいいかもしれない。

湯量も豊富で、料理も抜群に美味しく、大金をはたいても損はないという気持ちになるので、とってもいいところなのではあるが、なんというか貧乏性気分がいつまでたっても抜けない僕にとっては、多少落ち着かないというか、居心地の悪さも感じてしまう。

なかでも特に問題なのは、僕は風呂が基本的に好きではないということだ。基本的に5分も湯に浸かっていられないせっかちな性格のため、どうしても温泉に来ると損した気分になる。

「今度の土日は仕事が入ってないからどこか行こうか?」などと会話を振ってしまうと、「じゃあ、近場の温泉がいいんじゃない?」などと決まって返されるので、ついつい群馬県草津とか伊香保とか水上とか四万とかが候補になってしまうのだが、別に温泉が好きではない僕にとってはある種の苦行となってしまう。

しかも旅行なんて滅多に行くわけでもないので、まあそれなりの値段のする旅館を予約してしまうくせがあり、どうしても高くついた感が否めない。

またいま僕が最も愛するレストランは「大阪王将」のため、どんな高級割烹が出されたところで、餃子の方がうめえなだとか、てんぷらとかもてんやで十分だなとかいう感想が漏れてしまい、場を白けさせることもよくある。

この貧乏性気質をなんとか克服したいとは思うのだが、やはり「小銭をかぞえる」体質が染みついてしまっていて、どうも心から高級旅館を味わい尽くすことができない。

ああ、貧しいな、僕は。今日も「小銭をかぞえる」一日を過ごすかな。

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