ピストルズ やがて哀しき独り言

東京・恵比寿で広告・Webプランニング・開発・制作会社を経営する3年目経営者の悲哀を語っていきます。 弊社URL→ http://www.pistil-pistol.co.jp

この夏、38歳。

今夜もまた終電を逃した。この時間帯の恵比寿は祭りのあとのような静けさで、吸殻と空き缶と吐瀉物がちらほらと侘しげで、それらを眺めながら事務所に戻ると、妙な孤独感とこのまま明日なんて永遠にやってこないような錯覚に囚われる。


今夜ひょんなことから知り合った26歳の女性。道玄坂の、ビージーズが流れる薄汚いバーで、カンパリソーダを飲みながら彼女の26年の人生を聞いた。
2歳で両親が離婚し、中学時代にグレてイジメの首謀者となり、イジメの対象となった子を登校拒否に追い込み、高校は2年で中退。その後東京に出てきて風俗やAVでお金を稼ぎ、24歳でネイルサロンを渋谷で開業。細々と稼いで貯めた数百万円を、昨年末まで付き合っていた男に使い込まれたという話。よくある独り身女性の不幸話だし、どこまで真実なのか僕には到底見当もつかないのだけど、明るく笑い話として語る彼女は、とても素敵な女性なのだと思った。
ただ初対面の相手にかなり込み入った身の上話なんかするものなのかなという思いもあり、君の中でもう決着のついた話なの?と聞いてみた。
彼女は、「別に誰にでも話す必要のある内容でもないし、盛り下がるだけだから基本は喋らない。でもあなた寂しそうだったから、もっと寂しい人間なんていくらでもいるのよって」

 

そうか、僕は周りから見ると寂しい人間なのか。渋谷にいる誰もが明日のことなんかこれっぽっちも考えずに笑っている深夜0時に、一人でビージーズの「マサチューセッツ」を流すバーにいること自体寂しい証拠だ。一回りも下の女性に寂しそうな男、いや寂しそうなオジサンと思われる、この夏38歳になるただの男。ただのらくらと38年も平凡に生きてきた僕を、励ますために語ってくれた本当か嘘か分からない身の上話。たくましく生きる女性の前では男はいくつになってもただの子供なのだと改めて思わされた。

 

明日は早く家に帰ろう。少なくとも初対面の女性から寂しそうな男と思われるのは今日でおしまいにしよう。

 

まだバーで少し飲んでいくという女性と別れ、明治通りをまっすぐ事務所に向かって歩いた。東京の桜はもう散りはじめている。40代へ向かう僕の人生にもう桜は咲かないかもしれない。そう考えると寂しさがこみ上げてきたけど涙は出なかった。

 

ふと思い出した。
「なろうなろう明日なろう。明日は檜になろう。」
高校時代に読んで読書感想文を書き、県かなんかのコンクールで銅賞をもらった井上靖の「あすなろ物語」。いま読んでいる「ロング・グッドバイ」を読み終えたら、読み返そう。実家の本棚に新潮文庫があったはずだ。