ピストルズ やがて哀しき独り言

東京・恵比寿で広告・Webプランニング・開発・制作会社を経営する3年目経営者の悲哀を語っていきます。 弊社URL→ http://www.pistil-pistol.co.jp

住宅展示場にて、学ぶ。

今年のゴールデンウィークは住宅展示場めぐりをしている。

はっきり言ってしまえば、住宅展示場のモデルハウスはどこも70~100坪くらいある大きな敷地にフルスペックの住宅を建てているので、基本的にモデルハウスを見学したところで実際の住宅建築計画にはほぼ参考にならない。モデルハウスに憧れてハウスメーカーを決定したところで、実際の土地の広さを踏まえた間取り提案を受けた途端に、自分が建てようとしている家のささやかさに愕然とすることもしばしばだ。

なので、各社のモデルハウスはできるだけすぐに記憶から消すことにして、各社が気合を入れて用意してくれているマネケンベルギーワッフルやニューヨーク・ファーマシーの焼き菓子などをせっせと回収して廻るわけだが、別に僕はお菓子欲しさに住宅展示場に来ているわけではない。

では、なにゆえ住宅展示場を廻るのかというと、各社の営業さんのトークを聞きに来ているわけだ。

A社の24歳の営業くんは、必死に覚えた営業トークをフルスロットルで喋り倒す。優れた制震性、狭小地に強い設計、二世帯住宅に精通した歴史などを、嫌味な程若々しく汗臭い唾を吐き散らしながら、こちらを圧倒してくる。その蒸し暑さにこちらまでイライラし始め、100年住宅について自慢げに語り始めたところで、僕の我慢も限界に達し、一言「100年住宅だ?100年経ってから語れや」と釘を刺しておいた。

T社の26歳の営業さんは、唇の右端にある黒光りした黒子が「はいからさんが通る」や「パンドラの恋人」を歌っていた頃の南野陽子を彷彿とさせ、眩しい。彼女は完全受け身型の営業さんで、笑顔を絶やすことなく、こちらの理想とする住宅像を聞いている。こちらが「いますぐそのパンストを脱いで自分で被ってみてください」と言えば、それでも笑顔で被ってくれそうな様相を呈している。僕もそのキュートさに思わずあることないこと喋ってしまったのだが、いずれ疲弊してしまい、「あなたねぇ、お客様苦情受付センターじゃないんだから、何かしら自分のアイデアとか語ったらどうなんだね、え?事務所の言いなりになっている操り人形型の80年代アイドル風は止めにしたらどうかね!」と、完全にウザい客としての振る舞いを自分に鞭打ってしておいた。

M社の40代の営業さん(この年代になると敢えて年齢は問わない)は、後退した額がこの仕事のツラさを象徴するかのように、落ち着いた佇まいで頭頂からしたたる汗をふきふき、こちらの敷地面積の広さ、土地の周辺環境、賃貸併用住宅のメリット・デメリット、資金計画などをやんわりと聞いてくる。非常に親身になって相談に乗ってくれている風で、思わずぽろぽろと本音をこぼす僕をいいカモと思ったのだろうか。その眼だけは獲物を狙うハゲタカのよう。終いにはこちらの自宅訪問のアポイントまで取り始め、完全に丸裸にされそうになっていることに気が付いた僕は、「そんなに毛が欲しいなら、私のギャランドゥなら差し出す覚悟はございます」と這う這うの体で逃げてきた。

ところでなぜこんなことをしているのかと言うと、弊社ピストルズはこれまでご紹介と既存クライアントとのお付き合いだけで経営を持続してきたわけで、さすがにこれ以上会社を拡大しようと思ったら、きちんと営業をすることも考えなければいけないと考えたからです。

住宅展示場は非常に営業を勉強できる場所。競合各社がひしめき合って客の取り合いをするという「血で血を洗う戦場」なのです。各社の営業マンが目を光らせて、金になりそうな客を狙っているという、こちら側からすれば極めて恐ろしい処刑場のようなもの。少しでもこちらの怯えた気持ちを酌んでくれる営業さんに丸裸にされたい。そんな気分にさせられます。つまり、いい営業・鼻につく営業を肌で学べるわけです。

僕も、まるで競りにかけられる牛のよう。ドナドナ状態。胸の鼓動、いまだ冷めやらず。