住宅展示場からの刺客
ゴールデンウィークの住宅展示場巡りから1週間あまり経ち、いよいよ各社刺客を送り込んできた。もちろんそんな事百も承知の僕は、顧問税理士などに相談し彼らの爆撃に備え返り討ちにする準備は万端だ。
まず先陣をきって攻撃を仕掛けて来たのはS社である。家づくりプランニングブックなるものを既に送りつけて来ていた営業マンは、僕のその返送の速さに気を良くしていたのだろう。返送からわずか2日で建築プランニングが完成したと連絡を入れてきたのである。僕が記入し返送したプランニングブックが恐ろしく曖昧に書かれているにも関わらず!僕が記入したのは、いわばオリエンテーションである。もしも僕があんなに曖昧なオリエンテーションを受けたとしたら、迷わず「きみねえ、仕事に対する本気度はあるのかねっ!え?え?え?」と小一時間は詰問したくなるレベルの代物だ。それでいったい何をプランニングしたというのだろう。僕は迷わず、では土曜日お待ちしていますと、答えた。
そして今日である。浅草三社祭に出掛け、かなりヘトヘトになっていた僕のところへ、その中年営業マンはやって来たのである。彼が提示したプラン書を見て、僕は目を疑う事になった。敷地55坪の土地に3階建てを建て、そのうち一階部分の一部と2階全てを賃貸にするというのだ。しかも自社で30年一括借り上げまでを提案してきた。
僕が書いたオリエンは2階建てであり、かつ一階部分の一部を貸し店舗にするというものだ。まるで違うではないか!この男、僕のひっかけオリエンテーションに見向きもせず、建設予定地の面積や周辺環境の調査のみで設計したのではあるまいか?だとするとひっかけようという戦略で僕が返送したプランニングブック自体見ていないのではないか?僕の先制奇襲攻撃は通用しなかったということだ。僕は目の前が真っ暗になり、彼奴の術中に陥れられていく、まるで深い井戸の底に落ち込んでいくような絶望と快感に身をまかせるしかなかった。
しかし僕にはまだ逆転のチャンスがある。30年一括借り上げという名目の落とし穴だ。周辺の家賃相場に合わせて借り上げ額が毎年下がっていくという罠だ。
僕は渾身の力を込めて、「30年一括借り上げでしかも未入居時は家賃額を御社が負担すると言ってるけれどもねぇ、相場より家賃を下げてでも入居者を入れるつもりだろう。オーナーであるわたしには家賃設定の権限がないようじゃないか!!」などと根掘り葉掘り税理士から聞いていたシステムの脆弱性を突きつけてやったのだ。顔色を変え、這う這うの体で逃げ帰っていった営業マンの背中には、相手を無知だと思い込んでしまった己への怒りが見え隠れしていた。
今回の勝負は、僕の勝ちだ。