小銭をかぞえる。
「四万たむら」という老舗の高級温泉宿だ。
室町時代に創業した四万たむらは、さすがに威厳を感じさせる佇まいで、長時間の運転をしてきた来訪者を、優しくというよりも、「貧乏人風情のおまんらたちが来るようなところではないわ!」という厳しい視線で出迎えてくれるという、ちょっと後ずさりしてしまう感じが病みつきになる宿と言った方がいいかもしれない。
湯量も豊富で、料理も抜群に美味しく、大金をはたいても損はないという気持ちになるので、とってもいいところなのではあるが、なんというか貧乏性気分がいつまでたっても抜けない僕にとっては、多少落ち着かないというか、居心地の悪さも感じてしまう。
なかでも特に問題なのは、僕は風呂が基本的に好きではないということだ。基本的に5分も湯に浸かっていられないせっかちな性格のため、どうしても温泉に来ると損した気分になる。
「今度の土日は仕事が入ってないからどこか行こうか?」などと会話を振ってしまうと、「じゃあ、近場の温泉がいいんじゃない?」などと決まって返されるので、ついつい群馬県の草津とか伊香保とか水上とか四万とかが候補になってしまうのだが、別に温泉が好きではない僕にとってはある種の苦行となってしまう。
しかも旅行なんて滅多に行くわけでもないので、まあそれなりの値段のする旅館を予約してしまうくせがあり、どうしても高くついた感が否めない。
またいま僕が最も愛するレストランは「大阪王将」のため、どんな高級割烹が出されたところで、餃子の方がうめえなだとか、てんぷらとかもてんやで十分だなとかいう感想が漏れてしまい、場を白けさせることもよくある。
この貧乏性気質をなんとか克服したいとは思うのだが、やはり「小銭をかぞえる」体質が染みついてしまっていて、どうも心から高級旅館を味わい尽くすことができない。
ああ、貧しいな、僕は。今日も「小銭をかぞえる」一日を過ごすかな。