腕時計と税理士。
顧問税理士と会うたびに思うのは、こいつ俺たちの毎月の顧問料でがっぽり儲けやがって、毎回違う腕時計してやがるということだ。今回はIWC、前回はロレックス、前々回はフランクミュラーだった。フランク三浦でないところがムカつくのだ。
彼が言うには、アポイントは基本社長さんが相手だから、同じ時計していると笑われるんすよねー、と人の腕時計をチラ見しながらふくみ笑いしてやがる。
僕はといえば、昨年の4月独立して1年頑張ったご褒美として、自腹でタグホイヤーのカレラを買ったのだが、毎回その時計をしているというのが情けない。それ以外にはGショックとアシックスのジョギング用時計しか持っていない。僕は生涯付き合うつもりで、一大決心のもと、銀座の正規ショップでカレラを買った。定価でだ。退職金の残金から店員の頬を札束で張り倒してやる勢いで買ったわけだが、期間限定オマケとして付いてきたオフィシャル革バンドに小躍りして喜ぶ姿に、店員は貧乏人が清水の舞台から飛び降りる姿を見たのだろう、上から目線で僕に微笑んでいた姿が忘れられない。
その僕の腕時計を見て税理士は言う。
「社長!正規店で買ったんですか!流石ですね〜、私なんか毎回ハワイとか香港とかドバイとかゴールドコーストとかシャルルドゴール空港とかの免税店ですよ!!いやー、正規店なんてではとてもとても笑」
とうとう僕の堪忍袋の尾は切れた。
「貴様、免税店免税店と海外旅行に行きまくっているのを自慢したいのか!?なにが正規店で買って偉いだ!俺はな、俺はな、もう10年近く海外旅行になど行ってないんだ!貴様に毎月払ってる3万5000円をコツコツとためやがって、この小銭貯蓄型のケチ野郎!コツコツとマイルなんぞためやがって、貴様、ファミマで98円の買い物する時でもTカードにポイント貯めるタイプの小市民だろがっ!」
1人で顔を赤くしている僕を見て、彼は言うのだ。
「社長、ポイントを舐めたらあきません。私なんてポンタもnanacoもWAONも駆使しておりますよ。ほら、ヤマダとビックのカードも。マイルだって、ほらここ見てください、ヤマダ電機のポイントをANAのマイルに変更することも可能です。カードで買ってポイント貯めるのは常識です」と勝ち誇った笑顔で財布から出るわ出るわのポイントカード天国。
唖然とする僕に、畳み掛けるように彼はトドメを刺す。
「ローンのことから助成金補助金、生命保険のことからポイントカードのことまで、お金に関することならすべて私におまかせください!」
うーむ。そのコロコロ変わる高級腕時計の裏には、そんな知識と努力があったのか、、、参りました、許してください。